Claude、理論物理の
9-loop計算を達成
Claude Fable 5.1が、 planar N=4 super Yang-Millsにおける 6粒子散乱振幅を9 loopsまで直接計算。 AIが「アイデア」だけでなく、 複雑で壊れやすい科学計算そのものを担い始めています。
何が計算されたのか
今回Claudeが扱ったのは、 planar N=4 super Yang-Mills理論における 6粒子の散乱振幅です。
散乱振幅は、 粒子が衝突した時に どのような結果が起きるかを計算するための 理論物理の重要な対象です。
「loop」の数が増えるほど、 計算は急速に複雑になります。
なぜ「9 loops」が難しかったのか
loop次数が1段上がるたびに、 扱う数式、 条件、 計算量、 実装上の細かな注意点が増えていきます。
特に今回の計算は、 「新しい公式を1つ思いつけば終わる」 というタイプの問題ではありません。
既存研究で知られている多数の制約や対称性を 正確に組み合わせ、 長い計算パイプラインを 壊さず最後まで実行する必要があります。
Dixon氏はAnthropicの記事内で、 この計算の構築は非常に壊れやすく、 途中で小さなミスがあれば 全体が失敗すると説明しています。
従来の人間研究では8 loopsまで進んでいた
Dixon氏らは2023年、 form factorと 「antipodal duality」と呼ばれる対称性を利用して、 6粒子振幅を 8 loopsまで計算しました。
その後、 9 loopsへ進むことは 研究上の自然な次の目標でした。
しかしDixon氏は、 9-loop amplitudeを直接計算するのは 非常に難しいと考えていました。
Claudeは、 その9-loop振幅を 直接計算するコードを構築しました。
Claudeに与えた指示はかなりシンプルだった
Anthropicの研究者は、 Claude Science上でFable 5.1を使用しました。
Claude Scienceは、 Claudeを科学研究向けに 長時間・構造化して動かすための harnessです。
Anthropicの記事によると、 その後の人間側の指示も 「そのまま続けて」 といった比較的シンプルなものが中心でした。
Claudeは既存論文を読み、 計算方法を整理し、 コードを書き、 エラーを修正しながら 長時間の計算を進めました。
重要なのは「大量のGPUを投入した」わけではないこと
この挑戦の狙いの一つは、 単純に巨大な計算資源を投入して 問題を力ずくで解くことではありませんでした。
元物理学者Matt von Hippel氏が出した課題は、 学術研究者が現実的に使える程度の計算資源で、 AIが計算上の限界を超えられるか というものでした。
Anthropicの記事では、 Claude Fable 5.1とClaude Scienceを使い、 何百万ドルもの計算資源を投入せずに 課題へ取り組んだと説明しています。
結果はLance Dixon氏が独立検証
Anthropic内部だけで 「成功した」と判断したわけではありません。
9-loop結果は、 この分野の研究者である Lance Dixon氏へ渡され、 独立に確認されました。
Dixon氏は、 Claudeの9-loop amplitudeから より検証しやすいform factorへ戻すことで、 主にその結果を確認したと説明しています。
同氏は、 Claudeが過去の関連論文を深く理解し、 非常に複雑な計算レシピを 最後まで実行した点を高く評価しています。
ただし「新しい物理法則を発見した」わけではない
つまり、 AIがゼロから新しい理論を発明したというより、 非常に複雑な研究計算を 自律的に組み立てて実行した ことが今回の大きな意味です。
もう一つ重要:人間側の研究グループもほぼ同時に9 loopsへ
今回の結果には、 もう一つ重要な注意点があります。
Dixon氏によると、 Song He氏、 Jirong Jing氏、 Xiang Li氏のグループも 同時期に9-loop amplitudeの symbolを計算していました。
その研究では、 一部の制約計算にGPT-6を利用したものの、 全体の計算フレームワークは 人間の研究者が構築しています。
そのため、 「Claudeだけが唯一、人類未到達の9-loop問題を解いた」 という書き方も正確ではありません。
では何がすごいのか
AI for Scienceは「新発見」だけではない
AI科学研究というと、 新しい薬、 新素材、 新しい数学定理など 「発見」のニュースが注目されます。
しかし科学研究には、 発見の前に膨大な 計算・実装・検証・整理 があります。
今回Claudeが示したのは、 そうした「科学の計算労働」を AIがかなり深いところまで 担当できる可能性です。
OmochiX視点:AI科学者の価値は「思いつく」だけではない
AIが科学研究を変えるという話では、 「人間には思いつかなかった新理論をAIが発見する」 未来がよく語られます。
しかし今回の9-loop計算は、 それより手前の段階でも AIの影響が大きいことを示しています。
科学者の仕事には、 文献調査、 実装、 長時間計算、 デバッグ、 検証、 結果整理という 大量の知的労働があります。
Claudeがこうした工程を 長時間まとめて遂行できるようになると、 人間の研究者は 「何を問うか」 「どの結果を信じるか」 「何が新しい意味を持つか」 により多くの時間を使えるようになります。
AI for Scienceの最初の大きな変化は、 「AIが人間の代わりに新理論を発見すること」 ではなく、 研究者1人あたりが実行できる 計算と検証の量を桁違いに増やすこと なのかもしれません。
まとめ
Anthropicは2026年9月25日、 Claude Fable 5.1が planar N=4 super Yang-Millsの 6粒子散乱振幅を 9 loopsまで直接計算した事例を公開しました。
結果はLance Dixon氏によって 独立に検証されています。
今回の成果は、 Claudeが新しい物理法則を発見したというものではありません。
人間研究者が構築してきた既知の手法を理解し、 複雑で壊れやすい計算を コード化・デバッグしながら 9 loopsまで完遂した点が重要です。
また別の研究グループも ほぼ同時期に9-loopのsymbolへ到達しており、 AI単独の唯一の世界初と表現するのも適切ではありません。
それでも今回の事例は、 AIが科学研究で 「質問に答える補助ツール」から、 長時間の専門的な計算作業を実際に遂行する研究エージェント へ進み始めていることを示しています。
一次情報
Anthropic Science・2026年9月25日
Anthropic公式記事を見る →
Claude Fable 5.1の公式モデル情報。
Fable 5.1公式情報を見る →